Case Study

事例紹介

「市場変化・業態変化、季節波動に、持続して対応可能な柔軟な物流」を実現する

物流はコストではなく、ビジネスの成否を左右する戦略である。その概念を体現しているのが、株式会社アルペンだ。同社が目指す物流の「あるべき姿」とはどのようなものか。変革においてどのような困難を乗り越えたのか。同社執行役員で物流本部長兼サプライチェーン・ロジスティクス部長の濱中龍一氏、プランニンググループマネジャーの松本清寿氏、プランニンググループの麻田祐一氏の3名に話を伺った。

お客様に聞く

利益を生む「柔軟な物流」を目指して

 昨今、流通小売業は劇的な変化に晒されている。顧客のニーズが多様化することで、製品の小ロット多品種化が進んだ。コロナ禍を受けて、ECの需要はますます高まっている。さらに、ドライバー不足・物流費の高騰は深刻な課題となり、労働人口の減少で物流の担い手も不足している。そうした状況を受けて、アルペンでは2015年9月に物流改革をミッションとした新部署を創設。その物流システム改革を牽引しているのが、濱中氏、松本氏、麻田氏ら3名のメンバーだ。プロジェクトの責任者を務めた濱中氏は、当初の狙いと課題を次のように話す。

 「徹底的に議論を重ね、『市場変化・業態変化、季節波動に持続して対応可能な柔軟な物流』を『あるべき姿』に設定しました。ビジネスにおいても、コスト面においても、生産性においても、確かな利益をもたらすことができる。そんなゴールを描きました。その『あるべき姿』を実現する上で、根幹にあった課題がITでした。従来の物流システムでは、リアルタイムで在庫を把握・管理することができておらず、老朽化し、分断され、複雑化したシステムは外部のWMSと連携することができなかった。これは、アルペンの物流改革における、これまでの中京圏を拠点とした物流ネットワークを刷新し、首都圏に新たな拠点を設けるという大命題の課題となっていました」

 需要の大きい首都圏に対して、中京からモノを運んでいては、どうしてもリードタイムは長くなる。競争力を高めていくためにも、まずは物流システムから。そこでパートナーに選ばれたのがFutureグループでもあるYDCだった。濱中氏はその理由をこう話す。

 「私たちが目指すゴールに至るまでのストーリーがしっかりと描くことができ、明確に未来を想像することができた。そこに尽きると思います。その提案を絵に描いた餅で終わらせることなく、しっかりと行動で実現してくれているわけですからね。当時の決断に間違いはなかったと思います」

物流の可視化・一元管理を

 新たな物流ITをゼロからつくる。その改革の第一歩となったのが、LMSの導入だ。アルペングループすべての在庫をリアルタイムに把握する。これによって、東西倉庫における在庫の一元管理はもちろん、店舗からのオーダーの管理・可視化、出庫コントロールによる無駄のない物流が実現可能となった。麻田氏は「かつてのシステムでは、『どこに、どれだけの在庫があるか』は把握できても、各倉庫内の作業進捗がどの程度で、いつ店舗に届くのかといったステータスを把握することができませんでした。このLMS導入を契機に、一元管理によって、どの店舗にどの倉庫から引当して出荷するのか、店舗⇔倉庫間で最短の輸送距離で、倉庫出荷コントロールができるようになる。お客様のニーズにいち早く応え、効率のよい物流を実現する上では、これ以上ないメリットになると考えていました」と語る。

 またその当時、店舗の統括に携わっていた松本氏は「店舗の仕事にとっても、メリットは大きいですよ。今までは荷物が届きダンボールを空けても、何を優先に品出しをすればよいのかが不明瞭でしたが、オーダー種別の管理と外装への表記により、何から出せばよいかが分かるようになりました。また、倉庫の作業も可視化された為、必要な商品を以前よりも確実に短期間で店舗に届けるという動きを取りやすくなっています」と現場にもたらす価値も大きいことを強調した。

 このLMSの導入は、従来のレガシーシステムとの連携が多く必要なこともあり、アルペンの物流システムの中心として開発されたため、導入はきわめて難解な「大手術」であったという。日々の業務を止めることなく、既存のレガシーシステムと平行稼働しながらの段階的な切り替えを行ったからだ。麻田氏は「移行段階においては、いくつか想定外のトラブルも発生しました。各レガシーのシステムと、まったく新しいLMSを連携させていくのですから、それも当然のことですよね。ただ、そうした一つひとつのトラブルに対して、私たちはしっかりと向き合っていきましたし、YDCの皆さんも迅速に、的確に対応してくださった。無事に切り替えが完了したのは、ひとえにそのおかげだと思っています」と語った。

 LMSの導入と並行して、改革の肝であった首都圏の物流拠点も立ち上がった。改革の第一段階は無事に完了。これによって、「首都圏向けの納品リードタイムは大幅に短縮」し、「エリア間の輸送コストも抑制」「在庫消化の促進」にもつながったのだという。

現場の声を起点に、個別最適化を図る

 LMSの導入によって、物流の可視化・一元管理を可能にしたアルペン。続いて着手したのは、各DC・TCの革新だった。YDCのソリューション「LogiStra」をカスタマイズし、各拠点のWMSを順次刷新。それと平行し、老朽化したマテハンも刷新。自動化できる部分は、WMSからの各マテハン機器への指示により、最新のマテハン機器の特性を最大限に生かす倉庫運用を標準化している。また、注目すべきは、店舗のニーズを起点に「個別最適化した物流」を実現する「仕掛け」を導入したことだ。ブランド別梱包やアイテムを組み合わせた梱包等、店別・売場別に適した梱包形態を選択できる機能は、濱中氏肝いりのプランだったそうだ。

 「私の案というわけではなく、現場からそうしたニーズが多く上がってきました。物流を革新するならば、できるだけお客様や現場に価値をもたらすものにしたかった。だからこそ、私たちの想いはもちろん、みんなの『こうしたい』『だったらいいな』を大切にしようと考えていました」

 机上の理屈や計算だけでなく、対話を重ねた。だからこそ、実現した機能。店舗に製品が届くまでのリードタイムを短縮するだけでなく、「陳列までのリードタイムをも短縮」する。その想いは現場にも届いている。松本氏は「弊社の売場も全てではないが、メーカー別/ブランド別になるなど、大きな変化が起こっています。梱包の単位をブランド別にすることもでき、箱に貼られたラベルに表示されることで、きちんと店舗での作業がしやすいように配慮されている。これなら、アルバイトの皆さんにも、お店を知り尽くした社員と同じような仕事ができるようになる。多忙な店舗スタッフにとって大きな助けになると思います」と話す。店舗で働く人の仕事は、年々、複雑になり、そこで働く人の数も減少傾向にある。少しでも作業を簡単に、効率的に。そして、少しでもお客様に向き合い、価値ある瞬間を提供する。この物流改革に込められた想いは、アルペンのサービス向上にもつながっていくものだと言えそうだ。

導入して終わり、ではない

 DC・TCへのWMS導入で、シンプルな物流を実現し、店舗・売場別に適した梱包形態を取り、陳列までのリードタイムをも短縮可能としたこと。全体の物量を計画的にコントロールし、コストを最適化できたこと。物流システムの改革・刷新によって、アルペンはさまざまなメリットを手にすることができた。それらは、売上高物流コスト比率の大幅な改善に寄与し、経営において大きなインパクトをもたらしたのだという。一方で、物流のさらなる効率化・省人化については、試行錯誤を繰り返している段階だと濱中氏は語る。「システムは、導入して終わりというものではなく、使いこなして初めて本来の効果を発揮するものです。得られたデータを基に、PDCAを回していく。今はまだ完全にこのシステムの恩恵を得られているとは思っていません」。WMSから得られた明確なデータを分析しながら、一つひとつの作業を見直し、改善策を立案する。道半ばとは言いながらも、プロジェクトは確実に前進している。国内初導入となる3DロボットシステムALPHABOT導入については、バッチの組み立て、補充ロジック等、試行錯誤を繰り返す中、直近3か月で作業効率は飛躍的に向上している。松本氏も「これまでは『こうしたらいいのでは』という想像の域を出なかった改善策が、明確なデータとして表れたことで、仕事の質が大きく変わったことを実感しています。『次はこうしてみよう』『こんな方法もあるのでは?』とモチベーションも上がっています。物流システムのプロフェッショナルであるYDCの皆さんが伴走し続けてくれていることも大きな助けになっています!」と手応えをつかんでいるようだ。また、麻田氏は「今は柔軟性を重視して、あらゆるデータを引き出せる自由度の高いインターフェースになっているけれど、いずれは使いやすさを重視して、ある程度、仕様を限定して固めていく必要もあると思っています。そのほかにもやりたいこと、実現したいことはいくらでもある。YDCの皆さんには、変革のメンバーとしてまだまだお付き合いいただかないといけませんね」と、さらなるチャレンジに向けて意欲を語った。

改革のメンバーとして、さらなる提案を

 LMSによる一元管理のもと、ウェア、シューズをはじめとした各カテゴリのDC、各エリアのTCをWMSで個別最適化する。アルペンは2021年12月に新たな物流システムの構築を完遂した。同プロジェクトにおいて、YDC側の責任者を務めた葛西は、これまでの振り返りと今後の展望を次のように語る。

 「アルペン様のニーズに対して、柔軟に対応しながら、主体的に価値を提案できる体制を整えてきた。お客様の一員として、物流改革に貢献できたことを誇りに思います。ただし、改革はこれで終わったわけではありません。プロジェクトが一段落した今も、皆さんとは毎日、連絡を取り合っている。物流はコストではなく、ビジネスの成功を左右する戦略である。その想いを体現し、アルペン様の飛躍を支えていきたいと思っています」

 また、2024年にはECのさらなる需要拡大に向けて、新たな物流拠点を中京エリアにつくる計画も進められている。さらなる改革とチャレンジに際して、濱中氏はYDCに大きな期待を寄せている。

 「YDCの皆さんは『ここまでくるか?』というくらいに、グイグイと踏み込んだ提案をしてくれる。ベンダーでもなく、パートナーでもない。もはや、私たちのメンバーの一員だと思っています。全体最適と個別最適を交えながら、さらに価値ある物流ITを実現するための提案に期待しています」


お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

*取材日時 2022年8月
*アルペンのサイト
*記載の担当部署・役職名は、取材時の組織名です。

関連記事

お問合わせ資料請求