熟練者の技術伝承を成功させるポイント 課題編

共動創発事業本部 八重島

設計開発部門における技術伝承は、製造業においては特に大きな課題となっています。
これまで技術伝承に向けて様々な取り組みやチャレンジが行われてきましたが、技術伝承をうまく成功させた企業もいれば、
失敗してしまった企業もでてきています。
そこ明暗を分けたポイントはどのあたりにあるのでしょうか。

今回は、熟練者の技術伝承を成功させるポイントについて、Q&A形式で3回のコラムに分けてお話ししたいと思います。
今回はその第1回目です。

目次

【Q1】熟練者の技術伝承の難しさはどこに?


日本の製造業における「熟練者の技術伝承」の難しさについては、3つポイントがあると思います。

1.熟練者の頭の中の知識やノウハウは共有が困難


1つ目は、「技術」という目に見ない資産は、他者と共有するということが非常に難しいということです。

「技術」は多くの知識やノウハウ、そしてその人の能力の集合体として存在しており、その知識やノウハウそのものは
言語化しにくい「暗黙知」としてあります。

「暗黙知」を共有するためには、それを言語化するなど「形式知化」を行う必要がありますが、この作業が非常に
難しいのです。

まず、多くの「暗黙知」を所有している熟練者自身が、何が伝えるべきノウハウなのかが分かっていないという事が
あります。また、伝承すべき事が明確であったとしても熟練者の頭の中が体系的に整理されていないため、それを上手く
「形式知化」して伝える事が難しいのです。さらに、上手く文書化するなど「形式知化」したとしても、その情報を
伝達するだけでは、相手がその「技術」を駆使し、活用できる訳ではありません。

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この例としてよく知られているのは、自転車を運転するという技術の例です。自転車を運転する方法について、
もし運転できる人が知り得る知識を言語化して伝えたとしても、運転できない人が運転できるようにはなりません。
つまり、その「技術」はその運転できる人が経験してきた過程で獲得したものであり、同じ経験をしない人には、
その「技術」に関する「知識」を伝え理解させることはできても、「技術」を伝承できたとは言えないのです。

2.伝承する対象が要素技術に偏っている


2つ目は、課題解決・価値創造のため、いかに要素技術を活用するかということの重要性があまり理解されておらず、

伝承する対象が要素技術に偏ってしまっているということです。

これはどういうことかというと、日本の製造業における「技術」と言えば要素技術と呼ばれる基礎的な「技術情報」を
示すことが多く、この情報を伝承することが技術伝承である、と考えられがちで、これらの「技術情報」の真の価値を
引き出して資産化するには、複数の「技術情報」を学び分析することに加え、これらを組み合わせたり、応用できるように
なる必要があるのですが、この様に統合するスキルが日本の製造業では軽視されがちです。

この統合するスキルを「技術リテラシー」と呼ぶとき、「技術伝承」の成否がその「技術リテラシー」のレベルに大きく
依存するということです。
「ITリテラシー」という言葉に置き換えて考えるととても分かりやすいと思います。現在はインターネットの発展により
多くの人が多くの情報を獲得するコストが大幅に減りました。にも拘わらず皆がそこで得る情報を上手く活用できるかと
いえばそうではありません。そこには「ITリテラシー」の差が如実に現れます。

つまり、「熟練者の技術伝承」を成功させるためには、「技術」を伝承する側、される側双方の「技術リテラシー」
を向上させることを同時に行う必要があります。

なお、余談ではありますが先ほどの「技術リテラシー」について、技術立国であるはずの日本が実は上記に記述した
「技術」もしくは「技術を活かして価値を引き出す」ということについて、他の先進国に比べて体系的な教育を
受けていないという事実があります。この課題が、「要素技術」開発としてリードした日本製造業が、それらの

要素を統合した製品、ビジネスという領域で後塵を踏む結果となる一つの原因だと思われます。

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3.既存ビジネスへの影響面から批判的な意見が出やすい


3つ目は、現状のビジネスと並行して「熟練者の技術伝承」に取り組むことになるので、どうしても現場からの反発を受けやすい傾向にあると言うことです。

業務改善活動など何か新しい取り組みをする時と同様に、「熟練者の技術伝承」を推進する際にも、現場からは少なからず
反発が出ることでしょう。既存ビジネスを効率的に実行したいと考えている現場にとって、新しい取り組みは新たな負荷や
業務的な制約を受けるため、どうしてもストレスを感じて非協力的、批判的な意見が出てきてしまいます。
現場にもこの活動の意義としてビジネスを強靭なものに変えられること、それは回り回って現場にもメリットが生まれることを
うまく伝え、一定の理解を得ることが対策のひとつとなります。トップダウンの活動だから従わないとダメだといった
一方的な推進は、現場のさらなる反発を招くので避けるべきです。

批判的な意見の例

• この忙しい時期に、その様な活動に時間を割いている暇はない
• 今までで上手く業務を進められているのに、何故その様な活動・業務をしなければならないのか
• 現状でも、業務の中で「技術伝承」はできている。新たにやる活動に我々のメリットを感じない
• 製品開発はマニュアル的な業務ではない、その様な活動は技術者が考えないことに繋がる


このような意見は、現場を担っているマネジメント層、リーダー層が特に強く感じていることで、それは「熟練者の技術伝承」
という活動を庇護すべき経営層にも伝播していきます。最終的に経営層というオーナー不在の活動となってしまうと、この活動は
失敗という結果に取られかねません。

この3つ目の論点は、「熟練者の技術伝承」というテーマに関わらず、様々な改革を推進する上で共通となる難しさではありますが、
これは1つ目、2つ目の「熟練者の技術伝承」というとらえどころのない活動の難しさに輪をかけて、この活動を難しくさせるのです。

熟練者の技術伝承の難しさ

• 熟練者自身が何がノウハウなのかを分かっていない
• 熟練者の頭の中が体系的に整理されていないため、伝えたいことを上手く伝えられない
• 技術情報の伝達のみにとどまり真の情報価値を引き出せない
• 技術情報を組み合わせたり応用するスキルが軽視されがち
• 既存の業務を重視する現場から反発を受けやすい

次回は、技術伝承によくある失敗例と原因についてお話します。


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