スペースジェット(旧MRJ)の一時中断で感じる寂しさ

2020.11.24
代表取締役社長 山本智明

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。

10月末にスペースジェットの事業一時中断のニュースが舞い込んできました。記事やネットでは色々な情報があり、中断に至った背景は色々あるとは思いますが、とても期待していたが故に個人的にはとても寂しい気持ちで一杯です。

S_Column202011_1.jpg航空機業界はコロナの状況もあり、どこも大変な事は理解しています。スペイン風邪の時と同列で語ってはいけないと思いますが、執筆現在(11月16日)のコロナの状況では欧米が急速な再拡大をしており、世界の人々が世界中を移動できるのはかなり時間がかかると思わざるを得ません。今回の中断について、ネットのニュースやそれにかかわるコメントでは企業の体制や風土、国の関わり方などについて色々な情報や意見が交わされています。否定的な意見や撤退賛成の意見に関して理解はしますが、やはり新しい産業として日本には航空宇宙分野は外せないと思いますので、どうにかならないのか、どうすればこのような新産業が立ち上がるのかと考えさせられます。

このコラムは製造業の皆様を応援したいと思い、色々な事を記載してきたのでチャレンジされている企業を最大限応援したいと思っております。しかしながら1兆円かつ20年の開発期間をかけても難しいというのはとても考えさせられます。
開発費が巨額な為に販売も見据えて調整しなければ事業として立ち行かないので現場の方々は本当に大変だったと思います。

他にもこういった新規参入するのに難しい領域が多くあります。たとえば半導体のCPUとか最近賑わせている5G技術、特にIT分野ではほとんどの基礎技術は欧米に偏ったものになりました。ここで新規参入を実施しようにも膨大な開発費が必要であり、もはや大企業と言えども単独で戦うのは難しいと言わざるを得ません。

我々のIT業界で言えば、新しいオペレーティングシステム(OS)のベンダーは数社しかなく、この領域を覆すには数兆円あっても覆すことは難しいように思われます。データベースにしても同様です。特にソフトウェアに限ってはレイヤー毎に相互関連している為に、プラットフォームを変更するというのは過去の資産を考えると途方もないハードルの高さを感じます。最初の頃は業務のIT化は自社開発が当たり前な状況から始まり、今やプラットフォームからアプリケーションまでかなり老舗の実質標準的なソフトウェアが存在しており、この業界でも一品一葉のソフトウェアを開発するのはどんどん少なくなってきている様に思います。

これはユーザーにとっては安く早く利用できるという事なのでいい事だとは思いますが、選択肢はどんどん減っていきます。

S_Column202011_2.jpgある意味自由競争では技術集積度が高くなると、それが競争原理の限界なのではないかと最近感じます。資本主義での競争原理は自由競争ですが資本家に圧倒的差が生じた場合は、独占禁止法はありますが、チャレンジしようにもそもそも莫大な資金を投入するリスクを取れないという事が挙げられます。

少し話題がずれますが、コロナ対策において共産主義(社会主義)と資本主義の戦いという刺激的な見出しが一時期議論されていました。集中統制の自粛と自由な資本主義の自粛とどちらが効果的かという議論です。コロナではないですが、製造業を考えると中国の製造2025では重点10分野で世界の製造強国のグループ入りを果たすという目標を掲げて、国からの潤沢な投資が行われています。この中には次世代半導体(5Gを含む)、工作機、ロボット、宇宙航空等が入っており、中国国内認可に留まりますが大型旅客機も自前で開発し(自前の定義はありますが..)国力を蓄えて来ています。

皆さんご存知のとおり、過去及び現在でも半導体、液晶業界では、韓国、中国の国策による国の手厚いバックアップにて苦しい戦いを強いられてきています。現在は自動車本体についてはまだ大丈夫かと思われますが、電気自動車を支えるバッテリーは中国一強が色濃くなってきました。やはりこういう状況を考えると何かしらのバックアッププログラムが必要ではないかと思われます。

国が関与すると資本主義が歪むとか、リスクを取らなくなると成功しないとか、公平性やモチベーション理論などあるかもしれませんが、20年間かけて1兆円投資しても立ち上がらない事業や、半導体、液晶、電池産業を見てしまうと、もはやそんな事を言っていては大きな新産業は立ち上げられないのではと感じます。中国はそもそも資本主義ではないので一旦置いておいて、旅客機ではボーイングという巨人がいますが、そこは資本主義なので自由競争しなければと思うかもしれません。しかし、ボーイングは売上規模が10兆円程度ありますが、民間だけで頑張っている訳ではなく、軍需産業でもあり、軍需セグメントだけでも2017年は3兆円程度の売上があります。これに対して三菱重工業は2019年度の連結決算ではすべて合わせても4兆円強です。S_Column202011_3.jpg三菱重工業も防衛セグメントはありますが、航空・防衛・宇宙事業合わせて7000億円程度ですので、米国を考えると軍需セグメント売上が全て国策とは限りませんが、政府がボーイングに軍需費として支払っている額は日本とは比べ物にならないと察します。こういう一面を見ても会社全体としての開発投資余力を考えると厳しい戦いを強いられると言っても過言ではないと思います。

一方、中国を考えると14億人の人口に加えて、飛行機で昆明からハルピンまで4時間半、上海からウルムチまで5時間半もかかる程広大な国土があるので、高速鉄道はもちろんの事、航空需要も大きいと思われ、中国国内での型式証明での運行にも意味があるとも言えますし、それで大きな実績を積むことができます。もともと資本主義でないので国策企業の場合には開発費に対して潤沢に用意する環境があると思うと、そういう戦場に単独企業で挑めと言うのも無理があると思われます。環境条件が同じなら正々堂々と戦うのが筋ですが、スタートラインの環境条件が大きく異なる場合に自由な競争が資本主義の根本だといい始めると精神論にさえ聞こえます。本来国策というのは民間企業では達成困難なものを国の総力を挙げて行うものだと思うのでもう少し何とかならないのかと感じます。

今巷で多くある応用商売のITベンチャーなどは大きな投資も必要ないですが、高度な技術蓄積が必要な何十兆円規模の産業セグメントを本気で立ち上げるのであれば、官民挙げて行うしか他国と渡り合うには方法が無いように思われます。それも小さい国であれば国力をつけるまでは仕方ないかもしれませんが、2019年度で未だ世界第3位のGDPを誇る日本で新産業を立ち上げられないとは寂しい限りです。

さて、みなさんはどのように思われているでしょうか?

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