ものづくりで足らないものは何か?

2020.08.24
代表取締役社長 山本智明

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。

今回はものづくりで足らないものは何かを考えてみたいと思います。何故かと言いますと、2020年度版のものづくり白書を拝見していて、リチウムイオン電池の開発に寄与した旭化成の名誉フェロー吉野彰氏のインタビュー記事があり、とても印象に残ったのでその内容を踏まえて考えてみたいと思いました。

S_Column_202008_1.jpgさて、各社の4月~6月の四半期決算が出揃い、コロナ禍での経済状況がはっきりしてきており、厳しい状況が具体的に見えてきました。メディアでも話題になっている観光業界や飲食業界等は、倒産も増えて来て肌身で感じる危機的な状況が定量的に数字としても認識され、製造業においても赤字企業が多く、減収減益企業は相当な数になっています。半導体関連の企業については、リモートワークに代表されるオンライン化からデータセンターやサーバー、パソコン、スマートフォン、通信機器等関連して求められている産業については増収増益のような企業も存在しているのは少し安心するところですが、日本の基幹産業である自動車業界は厳しい状況にあり、ものづくり全般で考えると厳しい状況であると言わざるを得ません。

さて、前述の吉野氏のインタビューに戻りますが、私が印象に残ったのは以下の内容です。表現を変えて意味が変わってはいけませんのでそのまま転載させて頂きます。

<令和元年度 ものづくり基盤技術の振興施策 第201回国会(常会)提出 P46から抜粋>**************************************************************************************************************
-日本の製造業における研究開発の課題は。
「(2019 年版の白書で分析していたように)素材や基幹部品のような、いわゆる製造プロセスの『川上』 が強い傾向は更に強まっている。川上は模倣に時間が掛かるため、まだ追いつかれていないが、何も手を打たなければ次期商品の開発目標を見失い、川上も衰退していくだろう。昨今、『川上』と『川下』が直結する方向に動いていると感じる。これまで、川上の素材や部品は川中 に評価をゆだねていたが、これからは自分で評価を行わないと、川下とつながることができない。自分が使う立場で評価する能力を持つことが、5年、10 年先の新商品開発につながっていく。このような評価能力を持つことは非常に重要で、そのために、赤字でも自社で最終製品を作ることも戦略的に必要。評価能力を持つことで、川下企業がどのような将来像を描いているのか知ることができ、企画力につながる。IT 革命も、インテルとウィンドウズという川上と川下の連携によって生まれたと理解している。日本は川上が強いが、川下との連携によって世界的な企業が生まれれば、世界を席巻できるかもしれない。」**************************************************************************************************************

以前、私の「製造業は衰退してはいけない」という中で同様な話を記載していたので、とても共感を得たと同時に川下の重要さ、もっと直接的な表現をすれば、顧客へダイレクトに商品価値を提案する事を重要視しなければ衰退するという確信を得たように思いました。

そこで、実行に移すには今の日本には何が足りないのでしょうか?

S_Column_202008_2.jpg色々思いを巡らしていたのですが、どの分野でも日本の基礎技術力はそこそこあります。日本が主導権を失った例として携帯電話が代表的に揶揄されますが、アメリカもiPhone以外で成功しているものはありません。しかもiPhoneの部品の多くは吉野氏の話で川上が強いという様に日本製が多く組み込まれています。韓国もサムソンのGalaxy一強と言っても過言でないように思います。コンピュータでは負けていますが、ゲーム機はSONYしかり任天堂しかりグローバルで高い地位を確立しています。ゲーム機はコンピュータそのものですし、一般のPCよりもある意味高性能なので技術力は高いと言ってもいいと思います。

別の見方をすれば、Googleは自動運転の開発を行っていますが、Facebookと同様に会社自体は広告収入で成り立っているので、物理的なものづくりの販売収入で負けているかというと全く違うと思われます。
しいて言えば、テスラはハードウェアとソフトウェアを完全に融合し、新しい形で物理的な最終製品として販売している為、新世代のものづくり企業と言えますが、彼らの付加価値の源泉は車を制御するソフトウェアにあり、物理的な部分は特段優れているかというと勝てる要素は沢山あると思います。

会社の儲けや時価総額の面で語れば負けているのかもしれませんが、物理的な技術力において、日本は底堅い物があると思っています。デザインにおいても以前のコラムで記載しましたが、日本は決して負けない美的感覚を持っていると思います。そうすると、素材や部品、デザインも良いとなるとそれ以外の部分が弱いという事になります。

個人的には企画力や宣伝力(広告宣伝という意味ではなく、良さを伝える表現)、パッケージング力が弱いのではないかと思います。と言いながらも長らく日本の製造業は様々な製品を企画して市場に打って出ていた訳であり、一時期はグローバルを席捲したと思うと、やり方が分からないということも無いようにも思います。
一体何が足りないのでしょうか。

これがすべてではありませんが、方向性を考えていく上で気になる事があります。前回のコラムでも記載したのですが、安価に大量に供給するというベースの固定概念が根底にあり、そこから逃れられないのではと疑っています。もっとストレートに言うと日本のものづくりでは高級品を作るというのが苦手か罪悪感、使命感からか一歩踏み出せないのではないかと。正直iPhoneはスマートフォンの中ではかなり高価な部類です。掃除機のダイソンも掃除機というには個人的には高すぎる設定だと思います。車で言えばイタリア車はともかく、テスラ、ベンツ、BMW、AUDIもかなり高価な部類です。シンプルに言うと、高額な製品にターゲットを絞ってはどうなのでしょうか。

S_Column_202008_3.jpg思い当たる例が別の産業に存在します。今は厳しい観光業において過去に話題に上りましたが、日本の大きなGDP規模にしては高級ホテルやリゾートが少ないという事が挙がっていました。その需要を獲得すべく星野リゾートが最高のおもてなしをサービスする仕組みを作るとあっという間に高級リゾートのイメージを獲得して成功しています。改めて眺めてみると日本ではかなり多くの高級外車を見かけますし、iPhoneやダイソンも売れています。中国や米国のような圧倒的な富裕層ではなくとも高級外車が購入できる程の富裕層は日本にはかなり存在しており、逆の見方をすれば、そのような方を満足させる製品やサービスを日本企業が打ち出せてないとも言えます。当然グローバルには富裕層はもっと存在するので、ターゲットは広いと思われます。

確かに中・低価格で必要十分な性能の製品は世界中でまだまだ必要とされており、ニーズはあると思います。しかし、必要なものが一通り揃っている日本人が、その購買層に刺さる秀逸なコンセプトを肌感持って打ち出すというのは正直難しいのではないかと感じます。必要十分という肌感について世界での感覚が今の不自由のない日本人の肌感覚と同じなのかは疑問です。結果、高級でもなく安くもなくどっちつかずになっているのではと。であれば、高くても欲しいと思える製品の企画を正面切って行った方が今の日本人の肌感を最大限生かせるのではないかと思ったりします。しかしこれを行うにはターゲットの大きな転換になるので、過去のしがらみを捨ててコンセンサスが取れるかというのが問題になりますが、クラウドファンディングのような仕組みも最近定着化し始めているので、そういう仕組みを使ってテストリサーチする事も出来ますし、レクサスの様にブランディングを分けて、更に分社化して実行するという手もあります。どちらにしても試す価値はありそうですが、皆さんはどのように思われますか?

  • LINE
  • Mail