取り入れるのも難しいが無視もできないオープンソースハードウェア

2020.01.27
代表取締役社長 山本 智明

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。

S_Column_202001_1.jpg今回は、オープンソースハードウェアを取り上げたいと思います。随分前から深セン市(中華人民共和国 広東省)の製造業エコシステムについて情報が上がっており、興味深く見ておりました。また、成り立ちや考え方がとても興味深いのとオープンソースハードウェア化の流れも関連性が深いように思いました。

皆さんご存知かとは思われますが、深センは経済特区で世界のトップ企業が生産委託してきたことから産業クラスターが構成されました。特に電子部品関係については多くの中小企業が生まれており、その過程では最終製品や部品の模倣品が多く出回ったことで問題もあったと思いますが、結果的にはモノづくりにおいて、最適な組み合わせを最速で製造できる環境が出来上がり、中国の最先端企業とスタートアップ企業が集まる場所へと変貌しています。

公板(Public Board)や模倣品が発生した背景があるのかもしれませんが、深センの企業にはモノによってはそもそも特許を申請せずオープンソースにする戦略を取っている企業もあります。これは作るものが電子機器なので、直ぐに陳腐化するという事もあるようですが、真似するなら真似してくださいという事で、真似されている間にもっと新しい良い物を作るという考え方のようです。特許等の申請には時間もお金もかかり、申請すれば新しい技術をグローバルに広報してしまう点や、特許侵害された場合も訴訟する頃には、製品寿命を迎えてしまうので実質無意味であるとか、追及する頃には既に対象の企業がなく追及できない可能性も考慮しているのかもしれません。

しかしながらコピーもありだが、この製品技術を応用して、自分の技術と合わせてどんどん新しい製品を作ってくれれば世の中には良い効果があるという事も考えられているようです。そうすれば今度は相手の技術を自分が利用して、さらに工夫を加えていい物を作るという発想を持っている事です。面白いと思ったのは、この考え方はソフトウェアのオープンソースと同じ考え方だということです。現在ハードウェアではオープンソースハードウェアというのが徐々に広がっていますが、深センの企業は歴史的な経緯もあり、自然とこのような思想になったのかもしれません。現在の深センは中国を牽引する大手テック企業が育っているので、大手テック企業のハードウェアがオープンソースハードウェアという訳ではないですが、上記流れもありスタートアップ企業が集まる都市である事には変わりない様です。

さて、オープンソースハードウェアは一見考え方は良さそうですが、今後どのような発展を見せるのでしょうか?

S_Column_202001_2.jpg我々はIT業界ですので、オープンソースというのは今でも色々と問題の火種になる事には変わりはありません。ハードウェアはソフトウェアと違って実体があるので、ソフトウェアの問題がそのまま当てはまらないと思っていますが、深センの流れや現在の技術進歩の状況を見ているとちょっと考えてしまう事があります。

というのも、ソフトウェアの場合、ソースコードはすべて電子データですのでコピーを行うのは設備も特に必要なく簡単ですが、モノづくりは生産設備、物流、販売網の整備などに時間もお金もかかるので模造品やちょっとした変更を加えたモノを作るというのは販売までの投資を考えるととてもリスクが高いものです。しかし現在はどうでしょうか?

技術的にはITの進化がかなり貢献しているとは思いますが、モノづくりに必要な情報を得る時間は圧倒的に短くなり、生産の分業化が進み、サプライチェーンが効率化されている為、生産までの時間が極端に短く、グローバルであっという間に販売できてしまいます。また、技術的にはX線CTスキャナによる設計図のリバースエンジニアリング技術や3Dプリンタによるダイレクト製造など生産を効率化する技術はどんどん進化しています。この現象が進むと上記リスクは行動を決定する上での重要なリスクには該当しなくなってきている様に思います。

さらには深センの怖さは、コピーしても良いと宣言された場合には、その技術は抑えておかないと自社で独自に開発するのはコスト、スピード共に勝てなくなり、オープンなエコシステムに入らなければ置いて行かれる事になりかねません。また、インターネット販売やそれに紐づく物流も進化しているので、グローバルで短期間に大量に販売されてしまいあっという間に市場を押さえられてしまいます。

要するにハードウェアも製品構想から販売までの時間が極小化されてくると、製品開発の構図がソフトウェアに近くなってくるという事です。

設計図がオープンソースになっており、そこからよりアップデートした設計に作り替え、EMSで生産する事ができれば当然ハードウェアといえども少ない投資で素早く製品を開発してグローバルで販売する事ができます。応用開発のようなものなので特許で儲けるのではなく、最速生産でグローバル市場を短期に抑えて先行者利益で儲けるという考えだとすると質の違う対抗処置を考えないとこのエコシステムに対抗するのはとても難しく感じます。これはなかなか怖いエコシステムです。S_Column_202001_3.jpg

車や素材などの製造には向かないエコシステムとは思いますが、モジュールを組み合わせた応用製品のような場合はこれに勝つにはなかなか策がないように思います。また産業クラスター育成を考えると、深センがそうであったように、この流れでモノづくりの力をつけ、そこで蓄えた資金、ノウハウでオリジナルな製品を作るという成長モデル確立されると、気が付けば深センのように何兆円レベルのメガハイテク企業に成長し対抗できない状況も訪れます。

これは色々なノウハウを持つ企業をどう増やして成長させて、メガハイテク企業を作るかというマクロな戦略であり、一社で対抗できる戦略ではありません。なにかGoogleやアマゾンのように得た利益を別の投資に利用して圧倒的なサービス差別化で別セグメントのシェアを獲得する戦略にも似ている気がします。

力のある町工場が多く存在し、新しい製品を短い時間で生み出していくエコシステムが昔の日本にもあったように思いますが、いつからこれが出来なくなってしまったのかと思うと色々考えてしまう今日この頃です。

皆さんは深センの成長に何を感じるのでしょうか?

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