「見える化」を進めていく難しさ

2019.11.18

代表取締役社長 山本 智明

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。 

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今回はデータ活用を行う上で「見える化」を進めていく難しさについて考えてみたいと思います。「見える化」という表現は最近あまり言われなくなりましたが、それに代わってIoT、AIを活用したBigData解析というキーワードが到来しています。しかし、データ活用で業務改革を行うというプロジェクト推進においては、上層部の理解や現場展開にてまだまだ大きな壁があるように思います。 

というのも先日「SONAR研究会」において、日立金属株式会社様に業務改善の事例を発表して頂いた事で、あらためてこの点を考え直しました。

その前にSONAR研究会とは何かという説明が必要だと思いますので、少しだけご紹介します。
SONAR研究会は「製造に関わるデータを最大限に活用して如何に生産性や品質を上げられるか」という事をテーマに、改革事例や、この分野で活躍されている京都大学の加納教授のご講演、さらにトークセッションで現場の取り組みをお話し頂いたりと、各種ディスカッション及び情報交換の場として、参加者の皆様にご活用頂くことを目的に毎年開催している催しです。  

弊社は2008年より研究会を後援しており、この研究会の名前であるYDC SONAR®という製品を自社開発しています。この製品は生産現場に存在する多種多様なデータを一元的に管理・活用して業務改善を達成する為に作られています。

P_Column_191118_1.jpgさて本題ですが、今回の日立金属株式会社様の事例や、その他のお客様の事例においても「見える化」を行う事によって本当に改善が進んでおられます。しかしながら、皆様に共通されるのですが、データを見て判断することを「運用」に昇華させるには並々ならぬご苦労をされており、また、研究会に参加される皆様も「どうやって上を納得させたのか」とか、「どうやって定着、展開されているのか」「見えた事でどう変化があったのか」という質問も多く「見える化を行う意義」に苦悩されているように拝見されます。

機械学習や多変量解析を利用する場合は、「何か高度な理論で課題解決をしている」とある意味アピールしやすいかと思いますが、シンプルな「見える化」だけでは大きな改善が見込まれてもその先に進めない壁があるように思います。しかし、結果的にほとんどのお客様は比較的シンプルな「見える化」だけでも必ず行動が変化します。そして改善活動が続けられます。何故でしょうか?少し基本的なところをもう一度考えてみたいと思います。

では、そもそもなぜ「見える化」が必要なのでしょうか? 
極端な例で考えてみましょう。例えば車を運転するケースです。運転する時には道路状況、運転状況を認知してハンドル、アクセル、ブレーキ操作を行います。そこで運転手に目隠しをし、助手席にナビゲーターを乗せてナビゲーターから指示を受けて運転できるかを考えてみます。まず、最初は発進ですが、発進できるでしょうか?

どのくらい踏み込むのか、エンジン回転数を見て判断するのか、踏み込みの感覚を伝えるのか、スピードメーターを見て車のスピードを見ながら調整する指示をするのか?どうでしょうか?私は怖くて助手席には乗れません。ましてやハンドルやブレーキの感覚は伝達できる自信がありません。

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この例は極端ですが、何が言いたいかと言うと、人を介して何かの事象を伝えて行動するというのは伝える情報の質、量を考えるとバリエーションが多くて非常に難しい事が分かります。しかしどうでしょうか?リモートで画像と計器が見えればゲーム感覚で運転はできると思います。

これを生産現場に例えると人を介在させて報告するのは一般的ですが、工程も多くなると報告の質、量もバリエーションが多く、人によっても表現が変化するので、的確に対処する事は難しいと言えます。つまり、「見える化」の目的はコミュニケーション問題を解決するものと考えられます。製造業では「現場を見る」というのは、昔から大切にされている行動指針だと思いますが、まさにこの問題の対処策だと思われます。

次に情報伝達のスピードの問題があります。例えば3輪車であれば目隠しした運転者へ指示はできるかもしれませんが、自動車の運転は指示できないと思われます。この違いは当たり前ですが自動車は移動速度が速いので、高速な認知・判断・指示が必要であるという点です。生産においても現在の生産ラインは自動化が進み高速に流れるので認知・判断・指示をする方法は高速でなければなりません。パトランプは生産ラインの異常を知らせますが、複数工程が関連する問題は単一機械では対処できないので、データを取得して、直ぐに計算して判断をしなければ不良品を大量に吐き出す事にもなりかねません。また、高生産性の為に短期間に大量に市場へ投入されることから、問題があった場合のトレースバック・トレースフォワードも迅速にできなければ損失リスクが大きくなります。こういった内容を人が行う事はとても困難です。

また、車の運転もそうですが、必ず時系列で変化することへの対応が必要です。時系列で変化するものは表現が難しくグラフなどでトレンドを確認しなければ人間の感覚では伝達は困難です。

P_Column_20191118_3.jpg装置異常は分かりやすい例です。人間は少しの変化を違和感として意外と感知しますが、それを表現するのは困難です。そろそろ壊れるとか、なにか調子が悪いとは言えますが、別の人が同じ状態を同じ表現で伝達するのは不可能に近いのではないでしょうか?また、昼夜で交代制を取っているケースでは引継ぎがうまく行かないと装置異常の兆候は見落とされる可能性もあります。

これもコミュニケーション問題と分類されます。

次に、測れないものは改善できないという格言もあります。もしくは、改善できたとしても理由を論理的に説明できません。改善とは数値の比較であり、比較できないものは評価できません。

継続的な改善を行っていくには、定量的なデータ比較が必要であり、継続的なデータ取得と確認が日々実施されなければなりません。そもそもデータがない場合は、うまく行っているかという事も説明が困難です。

結果的にこれもコミュニケーション問題に分類されます。

このようにしてみると、見える化を行う意義は、人間の認知・判断・伝達のスピードを超えた能力を求められることへの対応と、一定品質のコミュニケーションを得て活動へのばらつきを極小化し、問題発生時のリスクを最小化する対策とも言えます。 

このようにデータを活用してハイレベルなコミュニケーション品質を得る事で原価低減、損失リスクの低減、売上アップや新たな可能性の確保など色々な項目でメリットが見えてきます。

逆に日々発生する問題は何のコミュニケーション問題から生じているかを考えると整理がしやすいかもしれません。

メールや電話などのコミュニケーション機能への投資は当たり前すぎて投資効果という判断の外側にいます。しかし上記を考えると高生産性が実現されている現在では、問題が発生した場合の影響範囲が大きいために既に「見える化」対策は当たり前すぎる領域に入り込んでいるようにも思われます。

さて皆様はどのように考えられていますでしょうか?

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