なぜデザイン重視に移行できないのか?

2019.10.18

代表取締役社長 山本 智明

いつもご愛読頂き、誠にありがとうございます。 

本執筆時の9月26日に、シャープの白物家電の国内生産撤退が計画通り行われたというニュースが配信されました。グローバル競争構造や国内ものづくりの衰退原因などは理解していますが、個人的には思い入れもあり、とても寂しい気持ちで一杯です。

過去のコラムで、製造業復活へのアイデアを自分なりに色々考えてみて記載して来ました。その中でも何度か触れて来ましたが、「なぜ日本の製品はデザイン重視に移行できないのか?」という事です。私はものづくりを続けるにあたり、デザインというのは製造業復活のための大きな力になると思っています。この内容について字数が少ない中ですが考えていきたいと思います。

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最初にデザイン重視の言葉の定義をしましょう。定義というとちょっと重すぎますが、デザインは色々な意味がありますが今回は美的な要素を取り上げます。また重視の意味ですがデザインの一点突破という意味ではなく、他の要素も色々ある中で一番でなくてもいいのですが、要素の中では主要な位置付けの意味で考えていきます。

まず、デザイン重視の戦略で成功している事例を見てみます。個人的嗜好になりますが、真っ先に思い浮かんだのがマツダです。自分の出身県という愛着が入っているかもしれませんが、マツダの車は曲線美がとても良く、艶っぽい、色っぽいという表現が合うように思いますが、デザイン性が高く、この効果から販売台数が伸びると共に保有する事に対してのステータスを向上させたと思います。デザイン自体は方向性があるので、好みが分かれるとは思いますが、ある方向性で高いレベルで実現していると思います。

次にインテリア用品ではIKEAです。北欧はすべてにデザインが重視されているように思います。私自身もIKEAを選択するのは、価格や機能もありますがデザインの要素がかなり大きいです。先ほど挙げたダイソンも「吸引力の落ちない」ダイソンですがデザインも良いと思います。車の分野ではやはり、欧州メーカーは概してデザイン重視かと思います。まれに受け入れられないデザインもありますが、、
欧州は建築も美しいですし、ファッションに関してはブランドが多いというのもありますがデザインはとても重視されているように思われます。他には欧州ではないですが、Apple社の製品はデザイン性をかなり重視してそのコンセプトを強力に打ち出しているように見えます。

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では、なぜ日本はデザインの優先度が低いのでしょうか? 
日本はどういう流れでこうなったのか分かりませんが、売り手側としては「機能」を重視する人が大多数な気がします。私はデザインを学んだ訳ではないので貧弱な感想で申し訳ないのですが、近代工業化前後で大きく変わったのかと思われます。
最近インバウンドで外国の方が日本へ来られますが、形のない日本文化や食文化以外の「もの」で何に魅力を感じているかというと、神社仏閣であり、庭園、城、着物、刀剣、甲冑、和食器茶器のような、近代工業化前のものです。近代工業は欧米から来ているので、当然日本オリジナルな要素が多い昔の「もの」がとても魅力的であるというのは間違いなく、私から見ても昔の日本の「もの」というのは洗練された独特の美しさを持っています。

とすると、日本人にセンスがないのではなく、美意識は世界の中でも卓越したものをもっていると思います。近代工業化の段階で、設計や生産の効率性を優先させた事や、新しい技術を取り入れた初期では性能、機能もチープであり、向上余地が多く、また多機能にする事自体がまだまだ難しい状況もあり、デザインよりも性能重視、機能重視が自然な流れだったのかもしれません。

さらに競合が出てくると、性能差別化、機能差別化が一番分かりやすい指標であり、家電レビューの雑誌などでは、やれ解像度がとか、オーディオであれば銅の純度がとか、倍速機能があるとかないとか比較表で記載され、星取表の数で優れている、劣っているという事を繰り返してきたように思います。

デザインというのはこういう星取表では評価できません。個人の嗜好に大きく依存するので、気軽に〇とか×とかは記載できませんから当然比較表には現れません。また、企画・設計側からすると、新製品を出すときには性能を上げるとか機能をつけるというのはとても分かりやすい差別化になり、企画が通りやすいというのもあるとは思います。人間なのでそろそろマンネリ化していると思っても、毎回イチかバチかの企画を出すというのも大変なので何となく既存の延長で済ませたくなるのも良くわかります。

ただ、これを繰り返していくと「普通に使う分には十分」という分岐点を見誤るリスクがあります。別の言葉で表現すると「衣食住足りて礼節を知る」という有名な言葉がありますが、必要十分な領域に入った途端に別の次元の領域に視点が切り替わるということです。「もの」の領域だと機能的に満足したら、次に来るのは何でしょうか?例えば所有する事の喜びというのもあります。

極端に言えば美術品の領域です。ただ美術品は大量生産されると価値が下がるので、あくまでデザイン性の究極の例です。車でも愛好家はいつまでも眺めていられるとか、洗車するのが楽しくてしょうがないとか、車に限らず所有しているステータスで満足するという領域です。この領域は外見だけでなく、車で言えばエンジンの吹き上がりの音とか、素材の質感であるとか感性の領域も入ります。

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機能を実現する為に必要なコストで勝負すると、為替レートや関税、調達交渉能力、国からの補助等、原価低減要素で有利なポジションを得る必要があり、これはこれで戦略としてはありですが、自分で調整できない要素が多ければ勝つのが難しくなります。その点感性に訴えかける戦略の場合、付加価値の値段はコストと直接相関しないので自由度は高くなります。ただし、デザイン性に重点を置けば置くほど大勝ちか大負けというリスクもあります。しかし、技術が高度化し、スペックや機能は多くの領域で飽和状態にあり「衣食住足りて」となっているので感性領域で勝負するしか余地がない様に思いますし、日本人の美的センスは世界でも通用すると思うのでチャレンジする価値はあります。

上記の流れは、多くの人が分かっていると思うのですが、正面から実行する企業が少ない様に思います。
そういった意味では、マツダは過去にユーノス戦略でデザインも大幅に変更してチャレンジした結果、厳しい状況に追い込まれましたが、その過去があったからこそ今があるように思えます。ロータリーエンジンにおいてもスペックもありますが、感性や所有する喜びに大きく訴えかける製品と思うと、マツダはそういうスピリットの会社なのかもしれません。

さて、みなさんはどのように思われますか?

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