"すり合わせ型製品"を"組み合わせ型製品"に変革、海外での受注機会拡大を目指す。

お客様に聞く

改革前

  • 特注プロセス依存による機会損失リスク
  • 設計・開発ノウハウの属人化
  • 生産着工時に仕様不備の問題が発覚することによるロスの発生

改革後

  • 製品ラインナップ強化、受注機会拡大
  • 設計・開発ノウハウの形式知化
  • 仕様不備の問題を受注段階で食い止めることでのプロセス全体のロス削減

横河電機株式会社では、グローバル市場での事業拡大を支える全社改革の一貫として、新たに、標準品の“組合せ”での受注方式を採用できるようにした。既存の業務ルールやシステムにとらわれないダイナミックな改革を遂行した経緯と効果について、同社IAプラットフォーム事業本部共通技術開発センターマネージャー津曲 哲郎氏、及び同センターマネージャー森 康一朗氏に詳しく話を聞いた。

横河電機株式会社

本社 東京都武蔵野市中町2-9-32
代表取締役 代表取締役社長 西島 剛志
創立 1915年9月
設立 1920年12月
資本金 434億105万円
事業内容 工業計器・プロセス制御システム製造

1915年に創立、1920 年に設立された国内最大手の計測・制御機器メーカー。グローバル市場に向けて、各種プラントの生産設備の制御システムや、産業向け計測機器などを提供。創立100周年を迎え、制御分野のリーディングカンパニーとしての地位を確立した現在においても、「品質第一主義」「パイオニア精神」「社会への貢献」の“創業の精神”を継承し、自己変革を遂げながら、計測・制御・情報の各分野で新たな価値を提供し続けている。

もくじ

  1. 1.グローバル市場での拡大事業のために “組合せ型” で製品ラインナップを強化
  2. 2.特注対応でしか受けられなかったオーダーを「標準品」で対応可能に
  3. 3.セールスコンフィギュレーターにより技術者の暗黙知を形式知化
  4. 4.プロセスの川上のあり方を見直すことでプロセス全体のロス削減
  5. 5.ソリューション型ビジネスへの展開でお客様への価値を高める

グローバル市場での拡大事業のために “組合せ型” で製品ラインナップを強化

伝送器ビジネスで実施した今回の改革の概要を教えてください。

横河電機 津曲氏:お客様から引き合いをいただいてから“すり合せ型”で仕様を決定していた受注プロセスを、標準品あるいは標準ユニットの組合せで仕様を決定する“組合せ型”に変革する取組みです。

お客様のオーダーに合う標準仕様が存在しない場合には特注対応として仕様をすり合せながら固めていくプロセスを動かしますが、特注プロセスには人手も時間もかかります。これまでの伝送器ビジネスでは、標準品とわずかに仕様の異なる要求があったような場合に、既にお客様に提供した実績のある既存のユニットや部品を活用することで対応できる繰り返し性の高い仕様の場合でも、特注プロセスで新たに図面を発行しなければならないという問題がありました。そこで、複数の標準品を組合せる「組合せ製品」の考え方を取り入れて、特注対応に依存してきた部分を標準品の組合せで対応できるようにしていこうということです。

“組合せ型”への変革を検討することとなったきっかけを教えてください。

横河電機 津曲氏:改革の必要性を感じるきかっけとなったのは、2000年頃から加速しはじめたグローバル展開です。横河電機の伝送器ビジネスは、もともと日本市場をターゲットとした事業形態であったため、いざ海外に出てみると様々な課題に直面しました。特に、製品ラインナップの面では、競合他社に比べて立ち後れていると痛感しました。競合他社ではお客様の設置環境での様々な使われ方に対応できる標準品を数多く用意している。対して横河電機では標準品のレパートリーが少なく特注対応をせざるを得ない。事業を拡大しようとすれば特注対応の要員を増強しなければならない状況になります。これではグローバルで競合と渡り合うことはできません。そこで、グローバル市場が主戦場となる将来のビジネスを考えたときに、“すり合せ型”の特注対応ではなく、標準品の“組合せ型”で様々な要求に対応できるようならないかと思い立ちました。ちょうど2009年頃のことです。

“組合せ型”を実現すると、製品販売のフレキシビリティが高まり、受注機会が拡大します。もちろん業務効率やコストの面での効果も期待できますが、内部的な削減だけでなく、製品の体系や受注の仕方を根本的に見直すことで、お客様の要求に柔軟に対応できるようにしていきたいという強い思いがありました。

活動の立ち上げから現在まで、どのように改革を進めてきたのでしょうか。

横河電機 津曲氏:2010年頃から図面体系や製品コードの検討を始め、2012年9月に正式にプロジェクトを発足させました。当初は伝送器ビジネス拡大プロジェクトのサブプロジェクトの一つという位置付けであったため、責任者である私を含め兼務で活動している状況でした。その後、徐々に活動の意義が評価され始め、2013年の春には、経営会議でこの取組みを組織横断プロジェクトと位置付けて加速していくことが決まりました。現在では、全社レベルの強力なバックアップのもと、各部門から高い意識と専門性をもったメンバーを集めて専任体制で推進しており、2015年11月のリリースを迎える段階に来ています。

特注対応でしか受けられなかったオーダーを「標準品」で対応可能に

「組合せ製品」について、詳しく教えてください。

横河電機 森氏:「組合せ製品」とは、製品の特性を複数製品の組合せで管理する考え方です。例えば「ダイアフラムシール付差圧伝送器」という製品があります。構成としては伝送器本体の部分と、そこからチューブで繋がるダイアフラムシールと呼ばれる高圧側と低圧型の受圧部(測定対象の圧力を受ける部分)に大別されますが、伝送器本体もレンジや材質等の違いで細かいバリエーションがありますし、ダイアフラムシールの部分についてもチューブの長さや太さ、ダイアフラムシールを取り付けるフランジの大きさ等の違いで細かいバリエーションがあります。従来は、「ダイアフラムシール付差圧伝送器」といった、その構成要素全体を包含する大きい単位で製品の仕様や特性を管理していましたので、2つあるダイアフラムシールのチューブの片側を短くしてほしというオーダーがあった場合、標準品にまったく同じパターンのものが存在しない限りは、特注プロセスで技術者が性能検証しながら設計する必要がありました。それに対して「組合せ製品」の考え方では、伝送器本体やダイアフラムシールといった、より小さい構成要素の単位で標準品を用意しておき、それぞれを組合せたときの特性を個々の標準品とは別に管理します。組合せの可否は予め決めたルールで制御しますので、先のようなオーダーがあった場合にも、技術者が一から設計することなく、標準品の組合せで対応しやすくなります。

「組合せ製品」では、どのような情報を管理していますか。

横河電機 津曲氏:標準品として管理する単位を明確にした上で、それらを束ねる“親”の役割を果たす「組合せ製品」を上位レイヤのカテゴリとして用意し、その上位レイヤで構成要素となる製品と、それらを組合せたときの形状、特性、必要な作業工程などの情報を保持しています。
横河電機でも昔から「複合製品」という概念はありましたが、「複合製品」は単に複数のハードウェアを並べただけのようなものですから、組合せによってどのような製品特性になるのか、その組合せをしたときに必要となる作業工程は何かといった情報を管理することができませんでした。「組合せ製品」では、個々の製品とは異なるレイヤに、それらを組合せたとき特有の情報を保持するという点がポイントになります。

横河電機 森氏:「組合せ製品」というと、どのような製品でも自由に組合せができるかのように聞こえますが、組合せ方によって対応できる使用温度範囲や圧力が変わります。形にはなってもその組合せではお客様のプラントで使用できない場合もあるわけです。これまでは、製品やパーツの組合せで特性を見るという発想がありませんでした。組合せの条件をルールとして整備し、そのルールを容易に確認するためのシステムを構築する。この一連の流れの前提となる「製品と製品を組合せて新たな製品を生み出すという発想」を取り入れたことが、今回の改革の一番のブレークスルーであったと考えています。

製品の捉え方を変える大がかりな改革ですが、どこから検討を始めたのでしょうか。

横河電機 津曲氏:従来のハードウェアを機能単位に分解し、製品を構成する単位を定義しなおす作業から始めました。それに伴い、製品コードの体系についても見直しました。
将来的には、製品を構成するユニット単位にまで分解し、“組合せ型”を深化させていく計画です。お客様のプラントの状況や国の違いによって、特定のユニットだけ仕様のバリエーションが多いという製品もあります。その部分をモジュールとして切り離して独立したコードで管理できるようにすることで、さらに標準品での対応がしやすくなります。

“組合せ型”により、仕様の掛け算で図面が増大していた状況が、既存の図面の足し算ですむようになります。図面も簡素になりますし、開発のリードタイム短縮にもつながるわけです。

セールスコンフィギュレーターにより技術者の暗黙知を形式知化

今回構築したセールスコンフィギュレーターについて教えてください。

横河電機 森氏:お客様の要求仕様をシステム上に入力することにより、製品の組合せを自動で選定できるツールです。製品の組合せにより実現できる温度、圧力、応答速度等の特性までシステムが判別します。セールスコンフィギュレーターを使うことで、標準品の組合せでお客様が求める仕様や特性に対応できるか否かを、営業担当者が技術者に問合せをすることなく判断できるようになります。組合せてはならない製品については選択できなくしていますので、不適切な仕様のものが受注される心配もありません。

セールスコンフィギュレーターの構築にあたって、注力したことを教えてください。

横河電機 森氏:セールスコンフィギュレーターのエンジンには、これまで技術者が特注対応をする際に使用していたロジックやノウハウを埋め込んでいます。従来は人的ノウハウに依存して製品設計をしているところもありましたが、そのノウハウを一つずつ紐解きながらセールスコンフィギュレーターに確実に取り込んで、暗黙知のノウハウを形式知化するというところに注力しました。

また、運用のし易さにも配慮しました。そのために、今回再整理した製品の仕様定義情報をそのまま仕様選定のルールに連携できるようなメカニズムを用意しました。製品開発、設計をしている担当者自らが、容易に仕様選定のルールを追加・更新できるという点も重要です。製品や仕様選定のルールがメンテナンスされなければ、無駄なツールになってしまいます。

横河電機 津曲氏:セールスコンフィギュレーター自体はパソコンのオンライン販売等で広く活用されるようになってきていますが、このコンフィギュレーターをBtoBビジネスにおいて、とりわけ特注対応が要求されるような製品で導入・運用することは、簡単なことではありません。先ほども触れましたが、まず導入する前段階で、“組合せ型”の受注に対応できるように、製品や技術の構造を整理し、それらの情報を管理する単位を再定義することが必要です。同時に、製品開発の方針や設計思想についても見直し、新しい考え方に対応できる組織構造に切り替えていかなければなりません。長期継続的に活用できるツールを実現するためには、業務や制度のあり方にまで深く踏み込んでいくことが、不可欠であったと考えています。

プロセスの川上のあり方を見直すことでプロセス全体のロス削減

セールスコンフィギュレーターを構築したことによる期待効果を教えてください。

横河電機 森氏:一義的には“組合せ型”の受注により特注対応の比率が下がることですが、「オーダー品質を向上させる」という狙いもあります。今回の取組みにあたって現場調査をする中で、生産着工段階で製造できない製品であることが発覚する事案があることがわかりました。発生頻度は高くはないですが、お客様への影響を考えると、見過ごすことはできません。セールスコンフィギュレーターがあれば、引き合いの時点で受注可否を判断できるようになります。

横河電機 津曲氏:引き合いから生産着工までの間には、複数の仕様チェックプロセスがあります。それにも関わらず、生産着工まで仕様の問題を見つけられないパターンが複数ありました。セールスコンフィギュレーターでは、これらのパターンについても確実に判定できるようにロジックに取り込んでいます。

問題の原因がフロントサイドの工程にあるならば、フロントのチェックを強化すればいい、それがわれわれの改革の考え方です。別プロジェクトで生産リードタイムの短縮(手戻り削減)などの製造現場の課題を検討している部隊がいますが、密に連携してプロセスの川上にチェック機能をもたせることでの抜本解決を図りました。

3年にわたる改革の中で、社内の業務に変化はありましたか。

横河電機 津曲氏:社内の会話で「組合せ製品」や「モジュール」という言葉が自然に使われるようになってきたことです。これまでは、社内に組合せという発想がなかったので当たり前ではありますが、長い時間をかけて各部門と議論や合意形成を重ねてきたことで、価値観を共有できるようになったということだと思います。セールスコンフィギュレーターの活用が浸透して効果が実感できるようになると、ビジネスの仕方も変わっていくと考えています。

横河電機 森氏:今回の取組みは伝送器ビジネスで先行的に実施したものですが、他のビジネス部門でも“組合せ型”のニーズはあるようです。製品と製品を組合せて新たな製品を生み出すという考え方は、広く浸透していくと思います。

ソリューション型ビジネスへの展開でお客様への価値を高める

今回の改革を足がかりとした今後の展開を教えてください。

横河電機 津曲氏:これまでは単品売りが基本でしたが、グローバルでビジネスをしていると、単品売りでスペックの競争をする時代ではなくなってきていると感じます。「組合せ製品」の考え方は、ハードの組合せで何ができるかを作り込んでいくソリューションの考え方に通じます。新しいプラントのプロセスにこの製品を組合せて設置するとこんな価値を提供できる、あるいはこんな課題を解決できる、そうした提案ができるようになります。「組合せ製品」は、横河電機のソリューション型ビジネスを後押ししていくことになると考えています。

最後に、今回の改革に携わったYDCの共動創発の取組みについてご意見をお願いします。

横河電機 森氏:YDCには、共動創発のコンサルテーションとシステム構築の両面でサポートをしてもらいました。一社で業務とシステムを併せて検討する体制により、技術上の制約を考慮した現実解を提案してくれる点が非常に効率的でした。また、共動創発のメンバーのファシリテーションには助けられました。スケジュールの面でも、目立った遅れがなくスムーズに推進することができました。

横河電機 津曲氏:YDCの共動創発のメンバーは、影響範囲が広く関係者も多い状況において、社内メンバーと変わらない動き方で、改革への思いを共有しながら核心に近い議論を一緒にしてくれました。YDCと一体となって進められたことが、今回の改革の成功につながっていると感じています。

お忙しい中、貴重なお話をお聞かせいただきありがとうございました。

  • 取材日時 2015年9月
  • 横河電機株式会社のサイト
  • 記載の担当部署は、取材時の組織名です。

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