未来への挑戦者たち

スペシャル対談インタビュー
挑戦者たちが見つめるこれからの世界とは?

日本の製造業や小売業の強さ、モノづくりの楽しさ、
未来への挑戦と進化を語っていただきました。

Vol.1

“デジタル技術”活用による、
小売業界の価値創造を考える

DCM株式会社
遠藤 将一様
株式会社ワイ・ディ・シー
内藤 孝雄
記事を読む

今、小売業界は劇的な変化に晒されている。この変化に柔軟に対応し、ビジネスに価値をもたらしていくには、積極的なデジタル変革が必要不可欠だと言える。そうした状況の中、果敢に変革に挑み続けているのが国内最大級のホームセンター会社、株式会社DCM様だ。日本の小売業が直面する課題はどのようなものか。それを打破するカギは何か。変革の最前線で活躍する二人が、小売とITの未来を語り合う。

TALK MEMBERS

DCM株式会社
事業統括本部 デジタル戦略部
部長
遠藤 将一様
株式会社ワイ・ディ・シー
SmartMFG事業本部
本部長
内藤 孝雄
DCM Do Create Mystyle くらしの夢をカタチに

DCM株式会社

DCMカーマ、DCMダイキ、DCMホーマック、DCMサンワ、DCMくろがねやが統合し、2021年3月に誕生した国内最大級のホームセンター会社。「Do Create Mystyle くらしの夢をカタチに」を経営理念に、お客さまのために、新しい商品・サービスを創造し、変化に柔軟に対応しながら、地域と団結し、社会に奉仕する、なくてはならない企業のカタチを実現している。

想いをカタチに—— 最高のパートナーと出会えた

――20万点にも及ぶ膨大な商品がどこにあるのか、すぐにわかる。YDCとの関係は「PlaceFinder」の導入から始まったそうですが、遠藤様にとってYDCはどのような存在なのでしょうか。

遠藤 こちらの「ふわっとした要望」をしっかりとカタチにしてくれる。私たちと同じ立場で、同じ方向を向いて考え、課題を解決してくれる。最高のパートナーだと思っています。出会ったのは、ちょうど一年半前でしょうか。「PlaceFinder」の導入にしても、ただパッケージとしてセールスするのではなく、課題を解決する上で、効果的な技術を提示し、アジャイル方式のようなかたちで、私たちが満足するものを共に創り上げてくれた。多くのパートナーと仕事をしてきましたが、本当に稀有な存在ですよ。

内藤 そう言っていただけると、とても嬉しいですね。私たちが心がけているのは、お客様に言われたことにそのまま応えるのではなく、常に120%、130%でお返しすること。お客様の要求の背景には、どのような要因・課題があるのか。その解決のために、どのような提案をすればよいのか。その点は強く意識し続けているつもりです。

遠藤 「120%で返します」「お客様の立場になって」というワードって、建前ではよく耳にしますでしょう? でも、それを実現するって本当に大変なことですよね。あらゆるシステムベンダーが、営業の段階ではそう言うのだけれど、実際に行動で示してくれる人はなかなかいない(笑)。ただ、YDCさんの場合は本当だったんです。「こういうことができればいいな」と呟くと、すぐに技術とアイデアをくれる。それは技術力の高さの証明だし、その姿勢にはいつも驚かされる。これは、本当にすごいことですよ。

内藤 そういう意味では、DCMさんも同じですよね。遠藤さんやチームの皆さんとお話していると、誰もが現場目線をしっかり持っていて、「お客様のために」「従業員のために」という本気の想いを感じます。そして、その実現に向けて、全力を注いでいますよね。私たちのミッションはその想いを技術でカタチにすることですから、こちらとしても力が入りますよ。

次なるチャレンジは、国民的少年マンガの世界

――では、ここからが本題です。小売業界、ホームセンター業界が抱える課題とはどのようなものなのでしょう。

遠藤 今、小売業界は変化の真っただ中にいます。それぞれの分野で抱える課題はさまざまかと思いますが、大きく共通するのは二つ。労働人口の減少で「働き手が採用できないこと」。そして、インターネットの登場などで「業務領域の壁が破壊され、業界を越えた競争が起きていること」です。前者の課題については、正社員はもちろん、パート・アルバイトの採用も難しく、その傾向は、経済が縮小し続ける地方に行くほど顕著になります。そのため、少ない従業員数で、仕事の負担を最小限にする「ローコストオペレーションの実現」が急務となっています。また、後者においては、ECの存在はもちろん、さまざまな業種が垣根を越えて、競争するようになっています。わかりやすい事例を挙げれば、ドラッグストアが生鮮食品を扱うようになりましたよね。同じような商品を扱っていては、勝てない。だからこそ、「お客様が求めるもの」を独自に追求し、新たな価値を提案していくことが必須になるわけです。DCMでも、プライベートブランド商品の割合は20%を超えていますが、よりお客様が求める価値を提供するには、データ分析による需要予測などは必須の取り組みだと言えるでしょうね。

内藤 今、お話しいただいた課題の他にも、取り組むべきことはいくらでもあって。DCMさんはそこに真摯に向き合っていらっしゃいます。だからこそ、私たちもスピーディーに、最新技術だけでなく、お客様にとって最適な技術を提案し続けているんです。そうしたサイクルを実現できるのも、YDCが独自の研究開発チーム「YDCラボ」を持っているから。多様な最先端技術を突き詰め、多くの種を持っているんですよ。

――「PlaceFinder」は、その象徴的な事例ですよね。その後、実際に進んでいる新たな取り組みはあるのでしょうか。

遠藤 今、ちょうど「スマートグラス」の実証実験を行っているところですね。新しいデバイスを用いることで、効率的な店舗オペレーションを実現しようと考えています。とある国民的少年マンガに登場する「あの機械」みたいな(笑)。

内藤 そうですね。DCM店舗の方も、開発者も、弊社役員も、皆さん、ワクワクしているみたいですよ(笑)。この実証実験の発端は、従来のスマートフォン型のデバイスでは、検品などの確認作業の負担が大き過ぎること。デバイスでバーコードを読み込んで、一度、そのデバイスを戻して、重い商品を持ち上げる……。メガネ型のデバイスであれば、両手が空きますから、作業負担は大幅に軽減されることになります。

遠藤 メガネのフレームに触れると、搭載されたカメラにメニューが表示されて、バーコードを読み取り、簡単に検品作業ができる。両手が空き、作業負担が減るという本質的な価値はもちろんだけど、純粋に面白いですよね。この取り組みは。この実証実験は、「作業負担を減らせないかなぁ」なんて何気ない呟きをYDCさんが拾ってくれたことから始まったんですよ。「これを使えば、解決できるかもしれません」と。すごいスピードで決まりましたよね。「よし、やってみよう!」と。

——効果はもちろんですが、「スマートグラス」が導入されれば、話題になりますよね。注目されることで、企業ブランドにも大きなインパクトがありそうです。

遠藤 そうですね。こうした取り組みは、小売業の課題につながる採用ブランドにも大きな影響があるんですよ。学生はもちろん、パートさんやアルバイトさんにも大きな魅力になりますよね。ホームセンターは品数が多く、大きく重量のある商品も多いから、応募に二の足を踏まれてしまう傾向があるのですが、「PlaceFinder」などのファクトを求人広告に盛り込むと反応が大きく変わりました。この取り組みは、さらにインパクトが大きいんじゃないかな。

そのチャレンジは、人々の幸せにつながる

――DCM様では、今回、話題に上がった取り組み以外にも、OMOへの取り組みやマーチャンダイジングの革新など、数多の取り組みにチャレンジされています。その原動力はどこにあるのでしょうか。

遠藤 お客様に確かな価値を届けたい。従業員の負担を少しでも軽減し、楽しく仕事をしてほしい。DCMをさらに成長させたい。そうした想いはもちろんありますが、一番は、「楽しいから」ですね。新しいモノをつくる。さまざまな仕組みを改善・改革する。そうしたことがないと、仕事がどうも面白くない。YDCさんのようなパートナーと共に考え、新しい価値を実現する。そして、それが多くの人々を幸せにする。これほど楽しい仕事は他にないと思っています。DCMは5つの事業会社が合わさってできた会社です。そして、システム部門のミッションもその基幹システムを統合することでした。10年をかけて、そのミッションを完遂した今、私たちのチームも「攻め」に転じられるようになりました。これからは、直面する課題を解決することが私たちの使命。やるべきことは山積していますからね。気合が入りますよ。

——さまざまな変革を通じて、遠藤さんはどのようなお店をつくりあげていきたいとお考えですか。

遠藤 私たちは「Do Create Mystyle」という理念を掲げています。それは、お客様一人ひとりの夢を叶え、生活を豊かにする手助けをすることに他なりません。すべての小売店は、プロの目利きによるセレクトショップ。「あそこに行けば、何とかなる」「困りごとを解決してくれる」といったイメージを持っていただけるような、価値を提供し続けたいと思っています。私たちのお店を訪れるお客様すべてが幸せになれる。そこで働く従業員も幸せになれる。そんな未来を実現していきたいですね。

内藤 DCMさんがお客様や従業員の方々の夢をカタチにするためにチャレンジを続けるならば、私たちのミッションは、DCMさんの夢をカタチにすること。その想いに全力で応えなければいけません。AIを駆使した「データ分析」による店舗オペレーション・マーケティングの高度化。さらには、店舗オペレーションの「最適化」など活用できそうな技術はいくつもあります。DCMさんが望む未来を実現するための、本質的なDXを提案していきたいですね。

遠藤 YDCさんのおかげで、私たちも「こんなことができるんだ!」と自信を持てるようになった。今思えば、あれが私たちの変革の第一歩だったのかもしれません。今後も「ふわっとした要望」を出し続けるので、しっかりとカタチにしてもらえると嬉しいですね。50周年、本当におめでとうございます。

内藤 ありがとうございます。今後もしっかりと期待に応えていきたいと思います。

遠藤 そういえば、ひとつ提案があるんですよ。最近、ウチのお店でIoT家電の評判がいいのだけれど、YDCさんの技術を活かして、コンシューマー向けの商品を開発できないかな? モノさえできれば、販路はありますから(笑)。

Vol.2

データサイエンスで、
ものづくりは革新する。

花王株式会社
坂本 雅基様
株式会社ワイ・ディ・シー
間宮 秀雄
記事を読む

より効率的に、より安定した品質を実現する。日本の屋台骨を支えてきたメーカーは、今、大きな変革の時を迎えている。データサイエンスの活用は、さまざまな課題に向き合い、解決していくためのマスターピースだと言えよう。日本を代表する消費財化学メーカーである花王様と「モノづくりの革新」について語り合う。

TALK MEMBERS

花王株式会社
加工・プロセス開発研究所
坂本 雅基様
株式会社ワイ・ディ・シー
データサイエンティスト
間宮 秀雄
KAO

花王株式会社

日本最大手の消費財化学メーカー。
「ライフケア」「ヘルス&ビューティケア」「ハイジーン&リビングケア」「化粧品」の4つのコンシューマープロダクツ事業と産業界のニーズにきめ細かく対応した「ケミカル」事業を展開。企業理念「花王ウェイ」を活動の根幹に据え、世界の人々の喜びと満足のある豊かな生活文化を実現し、社会のサステナビリティに貢献することを使命としている。

議論を交わせる、稀有なパートナー

――まずは、加工・プロセス開発研究所のミッションについて教えてください。

坂本 加工・プロセス開発研究所は、次世代の生産技術を先行開発することをミッションにしています。生産ラインの改善をはじめとした日々の生産に直結する取り組みを担う技術開発センターとは別に、生産技術のR&D組織を備えていることは、花王の大きな特徴だと思います。新たな商品を開発するには、処方の開発と共に、加工技術も重要となるのです。

間宮 データの活用も、その取り組みのひとつですね。日本の製造業によくあるケースなのですが、昔からずっとつくり続けているものでも、その原理や現象が学術的に明らかになっていないことがあるんです。機械学習やIoTなどの技術を活用すれば、その現象を解き明かし、理解することも可能になります。データサイエンスは単なる効率化ツールではなく、ものづくりを進化させるポテンシャルを持っている。お客様の知見と私たちのテクノロジーを掛け合わせれば、さまざまなことができるようになると思っています。

――本格的にデータ解析に取り組まれたのは、いつごろなのでしょう。

坂本 生産現場におけるデータ活用プロジェクトがスタートしたのは2017年です。まずは、生産現場のデータを可視化することから始めました。そこで、導入したのがワイ・ディ・シーさんの「YDC SONAR」でした。

間宮 坂本さんとお会いしたのは、「YDC SONAR」を導入したお客様同士が交流し、意見交換を行う「SONAR研究会」の場でしたね。立食パーティーでの雑談から始まり、データ解析に関するご相談をいただき、気がつけば熱く議論を交わしていて(笑)。「じゃあ、データを見てみましょう」となった。

坂本 そうでしたね。その時は、まだプロジェクトが発足して間もなくでしたが、心から稀有な存在だと思いましたよ。いわゆるITのプロフェッショナルと接していても、そこまで熱く「議論ができる」人ってほとんどいないんです。それは、生産技術に関する経験や知見が深いから。私たちと同じ目線で考えてくれる。自分たちでは考えられていない部分まで見通して提案してくれる。そんなイメージを持っています。それは間宮さんだけでなく、ワイ・ディ・シーさんの特長かもしれませんが。

間宮 ありがとうございます。私自身、花王様のプロジェクトに参画して感じたのは、チャレンジングであることです。意思決定のスピードが早く、複数の部署が関わるケースでも、立ち止まることなく推進していく力がありました。それも、「プロジェクトを成功させよう」「生産現場をよりよくしよう」という断固たる決意があるから。こちらとしても、その想いに応えたいという気持ちが強くなりました。

ワイ・ディ・シーは「見えないもの」を見ている

――ここからは、ワイ・ディ・シーが支援した貴社のデータ解析プロジェクトについて伺います。まずは、プロジェクトの概要を教えてください。

坂本 とある製造ラインの品質向上を図るプロジェクトでした。そのラインでは、花王のさまざまな製品に用いられる「中間製品」を扱っていたのですが、工程が長く、膨大なパラメータが関わるため、昔から手をつけられずにいたんです。製造のデータと品質のデータを使って、どういったパラメータが品質に影響するのかを検証していきました。

――そうした検証にあたって、社内のリソースだけでやろうと考える企業がほとんどだと思います。社外のパートナーと協働することに反対はなかったのでしょうか。

坂本 そうした声も当然ありました。ですが、私たちにはそのノウハウも、経験も十分ではなく、かなりの時間がかかることが容易に想像できました。社外のパートナーであれば、花王以外のさまざまな業界のものづくり・プロセスを経験していますし、私たちもその知見がほしかったですからね。

――パートナーの選定はどのようなかたちで行われたのでしょう。また、ワイ・ディ・シーを選んだ決め手についてもお聞かせください。

坂本 複数の企業に声をかけ、簡易的な検証を依頼したのですが、間宮さんの分析はひと味も、ふた味も違ったものでした。提供したデータを教科書通りに分析するのではなく、私たちの生産ラインの状況を考慮し、それに合ったアイデアを何十通りも提案してくれたんです。それを見た瞬間、「私たちが求めているのはこれだ」と確信できました。間宮さんは普段から、どのようなことを意識しているんですか?

間宮 一般的なデータサイエンスは、与えられた「目の前のデータ」を解析します。しかし、私が常に意識しているのは、見えない部分なんです。そのデータの背景には何があるのか。生産ラインにはどのような要素が絡み合っているのか。それらを考慮せずして、意味のあるアウトプットは出せません。そうした考え方ができるのも、ワイ・ディ・シーがデータを取り、製造現場を可視化するところからの支援を行っているからです。そこでの経験があるから現場が見える。こういう要素があるはずだと気づくことができる。私には他の人には見えていない景色が見えているんですよ(笑)。

「小さなきっかけ」が、次のアクションを生む

――このプロジェクトにおけるデータ検証で、どのようなメリットが得られたのでしょうか。

坂本 品質に影響を与えるパラメータの洗い出しをはじめ、データの活用で、生産現場をより鮮明に可視化できたことです。これまでは現場の担当者が「何かおかしいな?」と勘・コツで判断していたことが、データで示される。それによって、勘コツでは起こせなかった次のアクションを即座に起こせるようになりました。この点は現場にとっても大きなメリットだと思っています。また、品質に及ぼす影響を考慮する上で、「原料や設備状態などのデータを取る必要があるのではないか」という仮説が得られたことで、さらなる検討がスタートしていますし、私たちだけでなく現場もプロジェクトに参画してもらったことで、データ活用に対する「現場の意識」も変わったと実感しています。

——データの検証から、次のアクションが生まれる。理想的な結果だと言えそうですね。

間宮 データサイエンスは、答えのない世界に、答えを導き出す仕事です。しかも、何度もトライ&エラーを重ねて、出した結果が正解になるとは限らない。けれど、「ゼロから1」のきっかけを作ることができれば、「これとこれをつなげれば、うまくいく」という小さなきっかけができれば、そこから次々と新たな取り組みや価値が生まれていくものなんです。だからこそ、私のミッションはそのきっかけをつくることだと思っています。

坂本 花王でも、その象徴的な事例が生まれていますよ。現在、取り組んでいる「生産現場での未来予測」は、現在のパラメータから「数時間後に何が起こるか」を予測できるようにするためのプロジェクト。つまり、これまではトラブルが起きて初めてわかっていたことが、事前に予測できるようになるわけです。これが実現すれば、現場の皆さんは大喜びしてくれると思います。

——今後、ワイ・ディ・シーに期待することを教えてください。

坂本 私たちがデータ活用の入り口に立てたのは、ワイ・ディ・シーさんがいたからこそ。これからも製造現場に対する深い造詣と、提案力を活かして、私たちの自走支援をお願いしたいですね。また、最先端のテクノロジーをスムーズに活用できるようなサポートにも期待しています。50周年、本当におめでとうございます。

間宮 テクノロジーの進化によって、これまでにできなかったことができるようになりました。坂本さんの言葉を励みに、チャレンジする姿勢を忘れることなく、花王様の革新を支えていきたいと思っています。

Vol.3

「MADE IN JAPAN」を
革新せよ ー第1章ー

横河電機株式会社
津曲 哲郎様
株式会社ワイ・ディ・シー
田中 剛
株式会社ワイ・ディ・シー
八重島 師門
記事を読む

製造業DXの必要性が叫ばれて久しい中、多くの企業が本質的な革新をいまだ遂げられずにいる。まだDXという概念が登場していない2010年代から、モノづくり・組織・ビジネスの改革に取り組んできた横河電機の事例から、今後、製造業が取り組むべき改革を明らかにし、それを実現するための「核」に迫る。

TALK MEMBERS

横河電機株式会社
デジタルソリューション本部
デジタル戦略センター
津曲 哲郎様
株式会社ワイ・ディ・シー
代表取締役社長
 
田中 剛
株式会社ワイ・ディ・シー
共動創発事業本部
シニアアーキテクト
八重島 師門
YOKOGAWA

横河電機株式会社

1915年に創立、1920 年に設立された国内最大手の計測・制御機器メーカー。「測る力とつなぐ力で、地球の未来に責任を果たす」というパーパスのもと、グローバル市場に向けて、各種プラントの生産設備の制御システムや、産業向け計測機器などを提供。創立100周年を超え、制御分野のリーディングカンパニーとしての地位を確立した現在においても、「品質第一主義」「パイオニア精神」「社会への貢献」の“創業の精神”を継承し、自己変革を遂げながら、計測・制御・情報の各分野で新たな価値を提供し続けている。

インダストリー4.0に日本はどう備えるのか

八重島 かつて横河電機グループの一員であった共動創発は、2012年から貴社の内部改革の推進役を務めさせていただきました。津曲さんは主力事業であった伝送器部門を率いられており、グランドデザインからご一緒させていただいた経緯があります。あの改革は、まさに今でいうDXであったと思いますが、その取り組みを牽引された津曲さんに、「第四次産業革命の今」について率直なご意見をお伺いできればと思います。

津曲 現在、米・中・欧を中心に、第四次産業革命への取り組みが加速していますが、日本はかなり取り組みが遅れている印象を持っています。日本での対応を考えた時に、活動の内容からドイツを中心に活動しているインダストリー4.0の取り組みが参考になるのではないかと考えています。

八重島 インダストリー4.0はヨーロッパがビジネスで勝つために導き出したコンセプトから生まれたムーブメントです。ヨーロッパが打ち出した強かな戦略について、当時、津曲さんはどのような印象をお持ちだったのでしょう。

津曲 構想が発表されたのが2013年ごろ。強い衝撃を受けたことを鮮明に覚えています。ロボットによる工程の自働化はもとより、工程をスマート化することで、社外の末端部品の在庫状況把握や、トレーサビリティが確保された「サプライチェーン全体での最適化」を目指す取り組みであると認識しました。横河電機でも製造ライン単位でロボット導入による自働化を推進していましたが、その後の展開にまで考えが及んではいませんでした。

八重島 具体的にどのような点が参考になるとお考えですか。

津曲 インターフェースの仕様を標準化し、レゴブロックのような組み合わせでモノづくりを進めること。そして、ITを駆使した情報連携を行うこと。これがインダストリー4.0のコンセプトを実現する上での要件になりますが、この点は大いに参考になる部分だと思います。仕様の標準化が行われ、IEC規格のような国際規格で規定されてしまうと、その仕様に合ったものでなければヨーロッパの市場に参入できなくなってしまいます。日本の製造業としてもビジネス的なインパクトは大きいですから、その動向については注視する必要があると考えています。

八重島 ヨーロッパの戦略は規格・規制によって、市場競争力を得ることだと思われます。ヨーロッパのメーカーに対して、あくまで同様の標準化をすることが適切なのかは悩ましいところですね。パソコン業界や家電業界のように、コモディティ化することで「日本の強み」がなくなることも考えられます。

津曲 まだ具体的な制約は掛かっていないとはいえ、さまざまなところで標準化の取り組みは進んでいます。欧州圏でビジネスを継続させるためには、関連する情報をウォッチし、適宜対応を進めていく必要がありますし、私たちもそのための取り組みを進めているところです。

日本の製造業の強みを活かす

八重島 「標準品」の組み合わせで顧客の要求仕様を満たし、納期やコストを削減する。そして、売上や受注機会の拡大を目指す。横河電機では2012年にプロジェクトを実施し、伝送器部門の業務改革を成し遂げました。アメリカや中国と同じように、日本でも製造現場の効率化は進んでいますが、横河電機さんのように「全体最適」を考慮し、本質的な改革ができている企業は決して多くありません。

田中 津曲さんとの出会いもそのプロジェクトでしたね。私たちが「こんなことをしませんか?」と提案すると、「今の話は、最近読んだ書籍に書いてあることそのままではないか?」と指摘されてしまい。そんなニッチなことを書いてある本、本当にあるのかなと困惑していたら……(笑)。

津曲 よくよく聞いてみたら、田中さん、八重島さんが著者だったという(笑)。こんな出会いがあるのかと思いましたよ。すごく感銘を受けた一冊だったので、勢いで指摘してしまったのですよ。本当に失礼なことを言いました。当時、私は技術部長を務めていたのですが、その書籍で得た知見をどう製品改革や構造改革に活かそうかと考えていたところだったのです。

八重島 標準化・コモディティ化の波が押し寄せる中で、どのように戦っていくのかという内容でしたね。

田中 当時は、まだマスカスタマイゼ―ションという言葉があまり聞かれない時代。標準化は重要だという考えはある一方で、それを突き詰めていった時に、過去の半導体業界や家電業界のようにコモディティ化してしまう恐れがある。結果として、競合の参入が容易になり、コストダウン競争に巻き込まれてしまう。それだけは避けなければならないという思いがありました。このプロジェクトも当初は「特注の製品を製造するにあたって、プロセスを効率化したい」というご相談でしたが、議論を重ねていくうちに「効率化だけではなく、価値を出していく必要がある」という話になり、売上や受注機会の拡大といったテーマが出てきた。その点は私たちにとっても新鮮でした。

津曲 標準化や技術伝承への対応、生産現場のモジュール化といったテーマは盛んに叫ばれていたけれど、それらはあくまで「How to」の話。結局は「何がやりたいのか」「どうありたいのか」が重要だと考えていました。業務改革で成果を出す、ビジネス的に売上を伸ばすといったことに最終的にはつなげていかなければいけません。そうした中で課題だったのが、私たちが扱う工業製品に「標準品が少なかった」こと。同じ製品でも、お客さまによってスペックが異なり、それを特注品として生産するのですが、どうしても工数がかかり、納期も長くなってしまう面がありました。経営効率はもちろん、お客さまの期待に応えられていない点があり、その課題を解決するために、標準品の組み合わせによって、新しい価値を提供する仕組みをつくろうと考えました。

田中 手段と目的を混同せず、切り分けたこと。特注に対応できる強みを残しながら、いかに経営効率を上げるかという方向を目指したこと。スタート段階で方向性を整理できたことは非常に大きかったと思います。

八重島 海外でいかに勝つかというテーマでもありましたね。標準品を上手く売る欧米に対して、日本の強みである特注部分を踏まえて売っていこうと。効率の面でデメリットが生じないように、目指したのは組み合わせ型の製品アーキテクチャで多種多様な価値を出していくスタイル。「標準仕様を組み合わせる設計改革」と「フロントの売り方の改革」を同時に実現していったわけです。この改革は「日本の強みを活かしたデジタルトランスフォーメーション」だったと思いますが、それを実現する上でどのような点が重要になるとお考えでしょう。

津曲 横河電機は1981年から「NYPS(New Yokogawa Product System)活動」を推進しています。これは「TPS(トヨタ生産システム)」を参考にしたカイゼン活動なのですが、その根底にある二つのコンセプト「JIT(Just In Time)」と「人間性尊重」は、インダストリー4.0の考え方につながるものだと思っています。「JIT」とは、お客さまが必要な時に、必要な量を提供する仕組みです。要はサプライチェーン全体での最適化を目指す仕組みであり、お客さまとのつながりを強化するために必要不可欠なものだと考えています。もう一つの「人間性尊重」についても同じです。繰り返し性の高い作業をRPAなどの機械に置き換えつつ、工程を標準化することで人間でなければできないことに注力してもらう。そうすることでノウハウをブラックボックス化し、他社との差別化を図ることができるわけです。日本のものづくりの強みをベースとした取り組みを徹底すること。そして、工程を最適化し、ITを駆使して情報をつなぐこと。そうすれば、生き残っていくための戦略は自ずと見えてくると思います。

「MADE IN JAPAN」を革新せよ ー第2章ーへ続く
Vol.4

「MADE IN JAPAN」を
革新せよ ー第2章ー

横河電機株式会社
津曲 哲郎様
株式会社ワイ・ディ・シー
田中 剛
株式会社ワイ・ディ・シー
八重島 師門
記事を読む

製造業DXの必要性が叫ばれて久しい中、多くの企業が本質的な革新をいまだ遂げられずにいる。まだDXという概念が登場していない2010年代から、モノづくり・組織・ビジネスの改革に取り組んできた横河電機の事例から、今後、製造業が取り組むべき改革を明らかにし、それを実現するための「核」に迫る。(第2章)

あるべき姿を明確に、業務改革を断行

八重島 従来のモノづくりを根本から変えていったわけですが、多くの困難に見舞われたのではないでしょうか。

津曲 各部門がすり合わせを重ね、調整をしながら、最終的に製品をつくりあげていく。かつては、「すり合わせ型」の製品開発をしていました。ところが、それを「組み合わせ型」に変えようとなった時に、製品を構成している要素に分解して、それぞれの関係をインターフェースの仕様に変えていく必要があった。インターフェースの仕様を守らない限り、物がつかない。組み合わせた時に、どういう影響を受けるのかが予測できない。そのため、それぞれの主要なパーツに切り離すことからスタートしました。それぞれのパーツを独立させて、それぞれに特性を定義する。組み合わせたらどうなるかは最終的に調整するといったかたちです。ただ、モノづくりを切り離すことには、大きな抵抗と苦労がありましたよ。従来の文化そのものを変えていくことになるわけですから。

田中 そうですね。これまでとはまったく逆の方法でモノづくりをすることになります。

津曲 まずは、YDCさんとマトリックス図を描きましたね。それぞれのユニットで定義すべきパラメータがどこに作用するのか。それぞれのパーツが交差しないように最初の段階で切り分けた。皆さんがお持ちの第三者的な業務コンサルの知見には大きく助けられたおかげで、プロジェクトが加速した。私たちだけでは辿り着けなかったブレイクスルーだったと思っています。

八重島 そう言っていただけるとありがたいですね。けれど、本当に大きかったのは、改革チームに最前線で活躍するビジネスオーナーや、組織を俯瞰できるキーパーソンが参画していただけたことだと思っています。まさに、製品改革・業務改革のドリームチームでした。

津曲それぞれに経験を積み、想いを持っている人たちが集まりましたよね。ああだこうだと議論しながら、「私たちはこうあるべきだ」というものをつくりあげる熱量はものすごいものがあった。現状を把握する「As is」は出てきても、自分たちのあるべき姿「To be」はなかなか描けないもの。部署ごとの個別改革だと埒があかないケースも多いですから。それと大きかったのは、トップから明確な意志が示されたこと。当時、横河電機では「MSコード」という型番のようなもので、製品のやりとりをしていましたが、当時の海堀会長が「そんなものやめてしまえ」と。根底の部分を取っ払ってしまえばどうかと。改善ではなく、改革なんだというサジェスチョンがありました。私たちも、その発言を楯にしてプロジェクトを進めていましたね(笑)。

田中 おそらく、MSコード自体をやめるということではなく、そこも変えていくという意志表示だったんだと感じています。聖域はないよと。

津曲 お客さまも、営業も「MSコード」を前提にビジネスの話をする。よくよく考えてみると、それっておかしいですよね。お客さまが欲しいのは型番ではなくて、仕様じゃないですか。材質が何か。どういう通信方式か。「なぜ、それで受けられないの?」となりますよ。本来は、お客さまが望むスペックを読み込んで、それをこちらがコードに変換すればいいわけですから。

八重島 企業のトップが根本原因を理解し、販売、生産、基幹システムといった重要な部分も抜本から改革していいよと。モデルケースとなるようなプロジェクトだったわけですね。

津曲 ただ標準化・企画化だけでビジネスが成立するかというと、そんなことはないわけです。民生品と違って、工業製品はさまざまなニーズがあります。たとえば、同じプラントに用いる製品でも、使用されるプロセスによってスペックの要求が大きく変わるわけです。そうしたニーズへの対応が特注品になるわけですが、そこに対応できるメーカーでないと、標準品も買っていただけない。難しいところまで面倒見てくれる。だから、標準品の大規模なオーダーをいただける。特注をいかに効率よく取り込んでビジネスにしていくかは大きなテーマでした。

八重島 ソリューションをインテグレートする能力を磨き上げて、コモディティ化した流通の中で生き残っていく。一方で、強みである特注対応も効率よく担保する。そうしたビジネスを実現していくには、すり合わせで確立してきたコア技術をブラックボックス化することが重要ですね。

津曲 製品の組み合わせで価値を創出するには、培ってきた技術ノウハウとその技術を伝承することがきわめて重要になります。今回のプロジェクトでは、特注対応のロジックや知見を先輩たちが文書化してくれていましたので、それをコンフィグレーターツールというかたちに落とし込みました。パラメータを変えることで技術計算を自動でやってくれるわけです。ただし、ツールの裏側にあるロジックは、ブラックボックスになっているとはいえ、定義書をつくり、プログラム化していかないと成り立ちません。それを自分たちでメンテナンスしていくことで、若手に技術を伝承しながら、製品も維持継続していくことができるようになりました。

田中 YDCには「技術伝承のプロジェクトをやりたい」というオーダーが頻繁に寄せられます。けれど、その都度、「技術伝承は手段です。目的にすると失敗しますよ」と返答しています。「何のために」がないとプロジェクトは頓挫しがちになります。けれど、横河電機のプロジェクトは、すべてがつながるようにデザインされている。組み合わせ型のビジネスに変革し、グローバルで成長していくことが目的としてあって、それを実現するためにコア技術をブラックボックス化し、技術者の新しい仕事が生まれ、技術伝承にもつながっているのですから。

「MADE IN JAPAN」を革新せよ ー第3章ーへ続く
Vol.5

「MADE IN JAPAN」を
革新せよ ー第3章ー

横河電機株式会社
津曲 哲郎様
株式会社ワイ・ディ・シー
田中 剛
株式会社ワイ・ディ・シー
八重島 師門
記事を読む

製造業DXの必要性が叫ばれて久しい中、多くの企業が本質的な革新をいまだ遂げられずにいる。まだDXという概念が登場していない2010年代から、モノづくり・組織・ビジネスの改革に取り組んできた横河電機の事例から、今後、製造業が取り組むべき改革を明らかにし、それを実現するための「核」に迫る。(第3章)

お客さまと企業間を繋ぐデジタル改革を

八重島 津曲さんは横河電機全社のDXプロジェクトでも推進役を務められていますね。

津曲 現在、私たちのお客さまでもDXの活動が活発化しており、さまざまな情報の提供要求があります。「電子データでくれよ」が普通になってきたわけですね。当然、私たちが社内で扱っている情報をデジタル化していないかぎりは、お客さまに渡すこともできなくなってしまいます。そこで、取り組み始めたのが、2016年から取り組み始めた「PLM(Product Lifecycle Management)最適化」というコンセプトに基づく、社内の仕組みづくりです。まずは、企画や設計情報をはじめとした価値ある情報を利活用できる仕組みを構築することが、最優先課題であると考えました。バリューチェーンで使用される情報の多くは、エンジニアリングチェーンで作り出された情報を元に作成され活用されます。たとえば、製品の仕様や製品コードなどは、商品企画や製品開発プロセスの中で決定されFIXします。そして、そこでFIXされた情報を使って、製品仕様書や外形図などの販売資料が作成されるのですが、情報の提供方法や活用の仕組みが標準化されておらず、部署によって作成の方法もさまざま。複数の人が同じ資料をそれぞれに作成するといった無駄も生じていました。この点に注目し、プロセスの統合化と仕組みの一元化を始めています。ただ、このプロジェクトの目的は、社内の業務効率化ではなく、お客さまが必要とする情報を迅速に正確に提供することにあります。よって、社内の仕組みづくりだけではなく、お客さまに情報を提供するWeb環境も含めて、情報をつなぐことが重要課題である認識しています。

田中 PLMというと、技術情報を統合管理する目的で取り組んでいる企業がほとんどですよね。けれど、貴社の場合は違う。お客さまに適切なタイミングで、デジタル情報を出す。そのために、社内のプロセスを改革する。だから、PLMを最適化するんだという着眼点がすごいですよね。

津曲 実際のプロジェクトも「お客さまのため」という目指すべき方向を共有するところから始めました。これまでの仕事を変えるには、動機づけが必要だからです。ただ、そこに納得してもらうには、大きな苦労がありました。「自分たちに何のメリットがあるの?」「やった結果、何が返ってくるの?」といった意見が会話の随所に登場しましたからね。

八重島 DXという言葉が一般的に認知されていなかった時代に、そのコンセプトが出たことはすごいですね。私たちは津曲さんの改革をお手伝いさせていただきましたが、当時のプロジェクトをもとに書籍を出版したんです。その帯に早稲田大学の藤本隆宏先生から「よい設計の流れで、お客さまを喜ばせる」という推薦コメントをいただけたんです。設計情報がモノやデジタル情報に転写され、お客さまのところに届いたときに、感動していただける。津曲さんは、その点をしっかりと理解されていたのだと思います。そうした全体最適のコンセプトを描ける人は決して多くはないですからね。

津曲 もちろん、全体最適を考えて、「To be」を描くことは重要です。けれど、あくまで中心はビジネスオーナーなんですよ。ビジネスオーナーの方々の合意がなければ、すべてが「絵に描いた餅」になってしまいますし、協力も得られません。だからこそ、ビジネスオーナーの方々と膝を突き合わせて、徹底的に議論を交わしました。「あるべき姿」を口に出してもらい、「こういうことですか?」と絵にしていく。そして、現状の課題を浮き彫りにして、「こうすれば、皆さん、ハッピーになりますか?」という問いを投げかけ続けた。それが、活動の起点になった。プロジェクト発足から、6年近くが経過しましたが、そこで固まった「To be」は今でも変わらないものになっています。想いのある人たちと「How to」ではなく「Why」を共有する。手段は変わるけれど、行きつきたいところはブレない。プロジェクトを進める上では、きわめて重要な点だと思っています。

田中 津曲さんは事業部門のトップや、技術のトップ、中国での拠点立ち上げなどさまざまな経験をされてきました。だからこそ、「企業を俯瞰して見る力」と「全体最適を考える力」をお持ちだと思うんです。貴社では、「津曲さんのような人財を育成する」キャリアパスのプロジェクトも進んでいますが、全体を描ける人を組織的に育成する活動も重要になりますね。

津曲 そうした配置や人事を行えるかどうかは企業によって違います。ただ、全社のプロジェクト活動を有効に使うという方法はあるでしょうね。少数精鋭で行われるプロジェクト活動は、それぞれのメンバーが、いろんなところに行き、情報を得て、考えながら進んでいくものです。すると、次第に組織を俯瞰できるようになる。なぜ、このような問題が起きているのかが、全体から探れるようになる。そうした人を育てていくことが大事だと思います。ただ、人は短期間では育たないものですし、プロジェクトは一過性のものです。誰をアサインし、どう後のキャリアにつなげていくかは会社が熟慮すべき点だと思います。人と人とのつながりを大事にして、新たな知見や経験を得る。ロボットにはそういうことはできませんからね。

田中 伝送器部門の改革を実現させた津曲さんは、その事例を全社に展開すべく、他部門へ異動されました。当初、周囲の方は「あれだけ成果を上げた人が、なぜ突然、異動になったのか」と思われていたそうですが、会社が変革に真剣だということを痛感するようになったと言います。

津曲 改革を推進していくにあたって、経営陣に言われたのは「あんまりでかいことを最初にやろうとするな」ということでした。まずは伝送器部門だけでいいから、スモールスタートで一気通貫の仕組みをつくれということですね。全社レベルの改革となれば、さまざまな利害関係者がいて、取り組みも暗礁に乗り上げる。だから、私としてもやりやすい面はありましたね。活動範囲も限定されるし、これまでに培った人脈も使えましたから。まずは、パスを一回つくることが非常に大事なんですよ。そこでつくりあげたスタンダードを横展開することで、他部門での改革も普通にできるようになりましたから。

八重島 今まさに改革に挑む、ビジネスリーダーに向けてエールをいただけますか。

津曲 繰り返しになりますが、まずは「As is」と「To be」をきちんと描いてみることです。もう一つ付け加えるなら、経営トップとの連携を大事にすること。活動内容の理解と金額的な支援を得られるようにサポートしてもらえなければ、プロジェクトを進めることはできなくなってしまいます。日ごろから密なコミュニケーションを取り、進捗状況の報告と課題発生時の対応法等についても、相談できる体制を整えることが理想的だと思います。そして、最後に変革を担うリーダーには、課題の重要性を把握し、必要な場合には組織の壁を壊して、全体最適の視点から先頭に立ってリーダーシップを振るえる資質が求められます。第四次産業革命という大きな変革の時期が迫ってきているこの時代に、「自社が生き残るために何をやらなければならないか」「日本のために何ができるのか」を真剣に考えられる、強い意志を持った人財の確保と登用、計画的な育成が必要になると思います。

田中 共動創発の立ち上げから10年。YDCという会社自体も50周年の節目を迎えることになりました。皆さんのご期待に応えられるよう、さらなる努力と研鑽に努めたいと思っています。

津曲 この10年は横河電機にとって、革新の10年でした。皆さんがいなければ、改革は難しかったと思っています。いろいろな業界の知見や、テクノロジーのツールを駆使して、一緒になって私たちの未来を考えてくれました。越えられなかった壁を超えられたと感謝しています。これからも、日本の製造業のために尽力してください。